仁義原理主義者としての孟子
孟子は戦国時代の儒家である。人間の本性としての性善説を唱え、諸侯に対しては仁義の徳による統治(=王道主義)を行うことを主張した。倫理や世界史の教科書でよく目にする孟子とその思想だが、荀子の性悪説と対比すると性善説を唱えた孟子はなんとなく穏やかな人物のように思えてしまう。
しかし実のところ孟子の思想は仁義を重視しすぎるきらいがある。例えば「仁義に篤い君主が東の国を攻めると西の国の民衆はなぜこちらを攻めないのかと怒るだろう(東面而征西夷怨)」という言葉は、「仁義のための戦争なら攻め込まれる側の民衆も喜ぶはずだ」という諸侯の侵略を正当化した言葉とも解釈できる。また、「たとえ民を殺したとしても、それが道に従った行為の結果ならば殺された民はきっと恨んだりはしないだろう(以生道殺民、雖死不怨殺者)」という主張にいたっては被害者感情を完全に無視しているようにも思える(笑)
また、孟子は仁義を欠き民意に背いた支配者は天意にも背いていると考え、他の実力者によって排除されるべきだと主張した(=易姓革命)。この点はロックのように市民革命を肯定した社会契約説と類似している。易姓革命の思想は漢代に董仲舒によって完成されるが、孟子は戦国時代に武力革命を肯定するとともにその正当化・理論化に成功したのである。
教科書の情報から抱いたイメージとは異なり、著作を読んでいるとどうも孟子は血気盛んな人物のように思えてくる。武力侵攻や革命を仁義によって正当化する孟子はまるで仁義原理主義者のようだ。こうした豪快な主張をする孟子が「暴力を振るって良い相手は悪魔共と異教徒だけです」と豪語する『ヘルシング』のアンデルセン神父に重なって見えるのは私だけだろうか。
文献
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