鶏のあばら骨

sed scientia est potentia

元祖ロジシン本|デカルト『方法序説』

大抵の人がロジカル・シンキング(ロジシン)、あるいはクリティカル・シンキング(クリシン)の本と言われて思い浮かべるものは、おそらくビジネス書の類ではないだろうか。今はコンサルタントの肩書を持った著者の思考術の本がよく売れるらしい。中にはコンサルティング・ファームで新人研修の教科書として扱われた本もある。例えばバーバラ・ミントの『考える技術・書く技術』は良書だと思う。

しかし、歴史を紐解くと論理的/批判的な思考術を模索し続けてきたのは哲学であった。特にデカルトが思索の果てにたどり着いた、すべての事象を疑うという思考術は近代合理主義の出発点となった。そしてそれ故にデカルトの『方法序説』にはロジシン/クリシンの萌芽とも言えるエッセンスが詰まっている。

方法序説』の「方法」とは何に対する「方法」かというと、ありとあらゆる<考える>ことのための「方法」である。もともとの『方法序説』は、デカルトの大著『理性を正しく導き、学問において真理を探究するための方法の話[序説]。加えて、その方法の試みである屈折光学、気象学、幾何学。』の序文を抜き出したものだ。『方法序説』は今では当たり前になった合理的に考える「方法」を最初に提示した著作と考えることができる。そのため、本書には論理的/批判的な思考術に必要な基本的なことが書かれているのである。

方法序説』では「我思う、故に我あり」が有名だが、個人的には思考のための「四つの規則」の方がより現代でもすんなり理解しやすい思考術ではないかと思う。それは以下のようなものだ。

  1. 明証:明らかに真なるもの以外は受け入れず、判断の中に含めないこと。
  2. 分析:問題を適切に小部分に分割すること。
  3. 総合:順序立てて考えること。この際、最も単純なものから始め、最後に最も複雑なものに至ること。また、そのままでは順序がつかないものの間にさえも順序を想定して進めること。
  4. 枚挙:2と3に見落としがないよう完全な枚挙と見直しをすること。

上記の「四つの規則」を現代風に(≒横文字を多めに)言い換えると以下のようになるだろう。

  1. ファクトを重視し、先入観を排してゼロ・ベースで考えること。
  2. イシューを適切にブレイクダウンすること。
  3. 2でブレイクダウンしたイシュー群に対して構造的に解決に当たること。
  4. 2にモレもダブりも無いよう(MECEに)、3に論理の穴が無いようチェックすること。

いかにも今時のビジネス書っぽいじゃないか(笑)。しかしそれは現代の合理的な思考や問題解決に関する考え方が、デカルト以後に続いた科学的思考の延長線上にある証とも言える。

文献

方法序説 (岩波文庫)

方法序説 (岩波文庫)

方法序説ほか (中公クラシックス)

方法序説ほか (中公クラシックス)

考える技術・書く技術―問題解決力を伸ばすピラミッド原則

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