鶏のあばら骨

sed scientia est potentia

アイゼンハワーは四分円法を本当に使っていたのか

前回投稿した記事ではアイゼンハワーがよく用いたとされるタスク管理法「四分円法」を紹介した。

chickenribs.hatenablog.com

実は書籍やネット上でこのテクニックが紹介されるとき、アイゼンハワーが述べたとされる次のような言葉が添えられることが多い。それは「重要なことが緊急であることは滅多にないし、緊急なことが重要であることも滅多にない (What is important is seldom urgent and what is urgent is seldom important) 」というものである。重要性と緊急性を区別する考え方がよく表現されているというのだ。

しかし私が種々の百科事典でアイゼンハワーについて調べたとき、上述の言葉や四分円法についての記述は見当たらなかった。日本の百科事典はおろか、Encyclopedia of Britannica や Encyclopedia Ammericana にも記述が見当たらないのは不思議である。

そこで気になったので調べてみた。海外にはよく引用される言葉の初出や出典元を調べるサイトが存在するのだが、アイゼンハワーの例の発言については以下の記事で詳細な調査が行われている。

What Is Important Is Seldom Urgent and What Is Urgent Is Seldom Important | Quote Investigator

この記事によると、例の発言に近い文脈で最初に登場したのは1954年の世界教会会議第二回大会での演説においてだった。

I have two kinds of problems, the urgent and the important. The urgent are not important, and the important are never urgent.

「私は2種類の問題を抱えている。それは緊急な事柄と重要な事柄である。緊急な事柄は重要ではないし、重要な事柄は決して緊急ではない。」(引用者訳)

オリジナルの発言をそのまま受け取れば、重要かつ緊急の案件というのは存在しないことになってしまう。「重要な事柄は決して緊急ではない (the important are never urgent) 」からだ。したがってアイゼンハワーの考え方からすると例の四分円法による区分けはナンセンスということになる。

今となっては確かめようのないことだが、四分円法をアイゼンハワーがよく行っていたというエピソードのは単なるフォークロア(民間伝承)に過ぎず、事実とは異なる可能性があるのではないだろうか。